「風の子 3兄弟」


「風の子 3兄弟」

あるあたたかい春の日のことでした。
公園に背の高いサクラの木が立っています。
足元にはピンク色の花びらのジュータンがしいてあります。

 ついこの間まで、毎日、ネコやイヌやウサギやタヌキたちが遊びにきていました。
それがお花見のきせつが終わってからというものの、遊びにくるものといったら、小鳥くらいです。
あんなに歌ったりおどったりして、にぎやかだったのに、ひっそりとしています。
サクラの木はちょっぴりさみしく、たいくつに思っていました。
ところが今日は、自分の目の前に、風の子の兄弟たちがいます。
草の上にすわって、なにやらみんなで話をしています。
サクラの木は耳をそばだてながら見ていました。

 一番上の兄さんの名前は「ふういちろう」
青い色のシャツを着て、ナスビのようなお鼻にメガネをかけています。
二番目が「ふうじろう」
黄色のシャツを着て、ラッパのようなりっぱなお耳をしています。
三番目が「ふうさぶろう」
赤い色のシャツにぼうしをかぶり、パンダのような目をしています。

「何をして遊ぼうか?かけっこなんかどうだい?」
一番上の兄さんが弟たちに聞きました。
そう言うと、弟たちはいっせいに首を横にふりました。

「いやだよ。だって、ふういちろう兄さんが、一番早いにきまってるもん。」
「そうだよ。いつもぼくたち、負けてばっかりなんだもん。つまんないよ。」
「なら、力くらべをしようよ。」
 ふういちろう兄さんは弟たちに言いました。
「うん、いいね。でもどうやってやるの?」
「じゃあ、兄さんから先にやってみるから、ちゃんと見てろよ。」

 ふういちろう兄さんは、大きく息をすいました。
体はまるでふうせんのようにふくらんでいきます。
顔はトマトのようにまっ赤です。
今にもぱちんとはちきれそうです。

 そしつぎに口を小さくすぼめると、サクラの木に向かって、思いっきり息をふきかけました。
ビュービュー。ビュービュー。ものすごい大きな音がしました。
木のえだが波をうったように、ちぎれそうなほどにゆれています。
 とつぜん、こんな事をされて、サクラの木はおどろきました。
が、もっとおどろいたのは、えだで休んでいた小鳥たちです。
えだからずり落ちてしまった者さえいます。
小鳥たちはあわてばさばさっと音を立てて、どこかにとんでいってしまいました。

 えだにぶら下がっていた葉っぱたちも、
「あっ!」「わっ!」
と声を上げると、思わずにぎっていた手をえだからぱっとはなしてしまいました。
目と口を大きく開けたまま、さみしそうにすーっと次々に落ちていきました。
地面に落ちた葉っぱたちの悲しそうなため息が聞こえてきます。

 そんなことはおかまいなしに、ふういちろう兄さんは、メガネをもち上げて、にんまり笑って言いました。
「おい、おまえら、ちゃんと見てたか?あんな大きな木のえだをゆらしたんだぞ!葉っぱをたくさん落としたんだぞ!
力が強いっていうのは、こういう事を言うのさ。」

 次はまん中のふうじろうの番です。
向こうの方から、小さな女の子が歩いてきました。
大きく息をすってから、女の子に向かって、息をふきかけました。
ヒューヒュー。ヒューヒュー。
笛をふいたような音がしました。
そのしゅんかん、女の子の頭にかぶっていた白いぼうしが、ふわっと持ち上がり、遠くにとんでいってしまいました。

 女の子はあわてて、とんでいくぼうしをつかまえようと手をのばしました。
すると、かわいそうなことに、体のバランスをくずして、地面に転んでしまったのです。
女の子はうずくまったまま、なきだしてしまいました。
そんなことはおかまいなしに、ふうじろうはとくいになって言いました。
「ほら、見て見て!あんなに遠くまでぼうしがとんでったよ。すごくない?」
 
次は一番下のふうさぶろうの番です。
ふうさぶろうも兄さんたちのまねをして息をふいてみました。
フーッフーッ。フーッフーッ。
しかし、いくらがんばって息をふいても、体の小さなふうさぶろうでは何も持ち上がりま
せん。何度も何度もフーッフーッ。フーッフーッと息をふきました。
 すると、どうしたことでしょう。
ピンク色のジュータンの上の花びらが、一まい、一まいと、お空の方に向かって、ふわっと持ち上がっていったのです。
 水色のお空とピンク色の花びらが、なかよく手をつないで、くっついてしまいそうでした。

 「なーんだ、お前はたったそれっぽっちか?そんなちっちゃな軽い物なら、だれだって持ち上げられるよ。」

 兄さんたちはばかにしたように、ふうさぶろうに言いました。
それでもふうさぶろうは何度も何度もフーッフーッ。フーッフーッと大きく息をふきかけました。
持ち上がった花びらは、まるでチョウのようにひらひらと空中を舞っています。

 その時です。さっきまで地面に転んでないていた女の子が、急にすくっと立ち上がりました。
両手を上げると、ばんざいをして何度も何度もとび上がりました。
ひらひらしている花びらを、手でつかもうとしたのです。

ふうさぶろうはさらに、息をふきつづけました。
 その女の子のすがたを、遠くで見ていた他の子どもたちも、そばにやってきました。
男の子も女の子も小さな子もちょっと大きな子も。
 みんながピンク色の花びらをつかもうと、手を伸ばしてぴょんぴょんとび上がりました。
どの子も目をキラキラかがやかせてわらっています。
子どもたちの黒いかげまでもが、地面ではずんで楽しそうです。

「ぼくはあんなにいっぱい、花びらを持ち上げたよ。
男の子も女の子も、いっぱい持ち上げたよ。だからぼくが一番力もちだよね。」 
 ふうさぶろうが、茶目っ気たっぷりにそう言った時でした。
どこかから低いやさしい声がしてきました。
みんなは、いっせいに声のした方を見ました。

「そうさ。みんなにえがおの花をいっぱいさかせた、きみが一番だよ」
 そこには風の子の兄弟たちを見て、うれしそうにわらっているサクラの木がいました。

(2013年 第25回新美南吉童話賞応募作品)「風の子 3兄弟」
           
 あるあたたかい春の日のことでした。
公園に背の高いサクラの木が立っています。
足元にはピンク色の花びらのジュータンがしいてあります。

 ついこの間まで、毎日、ネコやイヌやウサギやタヌキたちが遊びにきていました。
それがお花見のきせつが終わってからというものの、遊びにくるものといったら、小鳥くらいです。
あんなに歌ったりおどったりして、にぎやかだったのに、ひっそりとしています。
サクラの木はちょっぴりさみしく、たいくつに思っていました。
ところが今日は、自分の目の前に、風の子の兄弟たちがいます。
草の上にすわって、なにやらみんなで話をしています。
サクラの木は耳をそばだてながら見ていました。

 一番上の兄さんの名前は「ふういちろう」
青い色のシャツを着て、ナスビのようなお鼻にメガネをかけています。
二番目が「ふうじろう」
黄色のシャツを着て、ラッパのようなりっぱなお耳をしています。
三番目が「ふうさぶろう」
赤い色のシャツにぼうしをかぶり、パンダのような目をしています。

「何をして遊ぼうか?かけっこなんかどうだい?」
一番上の兄さんが弟たちに聞きました。
そう言うと、弟たちはいっせいに首を横にふりました。

「いやだよ。だって、ふういちろう兄さんが、一番早いにきまってるもん。」
「そうだよ。いつもぼくたち、負けてばっかりなんだもん。つまんないよ。」
「なら、力くらべをしようよ。」
 ふういちろう兄さんは弟たちに言いました。
「うん、いいね。でもどうやってやるの?」
「じゃあ、兄さんから先にやってみるから、ちゃんと見てろよ。」

 ふういちろう兄さんは、大きく息をすいました。
体はまるでふうせんのようにふくらんでいきます。
顔はトマトのようにまっ赤です。
今にもぱちんとはちきれそうです。

 そしつぎに口を小さくすぼめると、サクラの木に向かって、思いっきり息をふきかけました。
ビュービュー。ビュービュー。ものすごい大きな音がしました。
木のえだが波をうったように、ちぎれそうなほどにゆれています。
 とつぜん、こんな事をされて、サクラの木はおどろきました。
が、もっとおどろいたのは、えだで休んでいた小鳥たちです。
えだからずり落ちてしまった者さえいます。
小鳥たちはあわてばさばさっと音を立てて、どこかにとんでいってしまいました。

 えだにぶら下がっていた葉っぱたちも、
「あっ!」「わっ!」
と声を上げると、思わずにぎっていた手をえだからぱっとはなしてしまいました。
目と口を大きく開けたまま、さみしそうにすーっと次々に落ちていきました。
地面に落ちた葉っぱたちの悲しそうなため息が聞こえてきます。

 そんなことはおかまいなしに、ふういちろう兄さんは、メガネをもち上げて、にんまり笑って言いました。
「おい、おまえら、ちゃんと見てたか?あんな大きな木のえだをゆらしたんだぞ!葉っぱをたくさん落としたんだぞ!
力が強いっていうのは、こういう事を言うのさ。」

 次はまん中のふうじろうの番です。
向こうの方から、小さな女の子が歩いてきました。
大きく息をすってから、女の子に向かって、息をふきかけました。
ヒューヒュー。ヒューヒュー。
笛をふいたような音がしました。
そのしゅんかん、女の子の頭にかぶっていた白いぼうしが、ふわっと持ち上がり、遠くにとんでいってしまいました。

 女の子はあわてて、とんでいくぼうしをつかまえようと手をのばしました。
すると、かわいそうなことに、体のバランスをくずして、地面に転んでしまったのです。
女の子はうずくまったまま、なきだしてしまいました。
そんなことはおかまいなしに、ふうじろうはとくいになって言いました。
「ほら、見て見て!あんなに遠くまでぼうしがとんでったよ。すごくない?」
 
次は一番下のふうさぶろうの番です。
ふうさぶろうも兄さんたちのまねをして息をふいてみました。
フーッフーッ。フーッフーッ。
しかし、いくらがんばって息をふいても、体の小さなふうさぶろうでは何も持ち上がりま
せん。何度も何度もフーッフーッ。フーッフーッと息をふきました。
 すると、どうしたことでしょう。
ピンク色のジュータンの上の花びらが、一まい、一まいと、お空の方に向かって、ふわっと持ち上がっていったのです。
 水色のお空とピンク色の花びらが、なかよく手をつないで、くっついてしまいそうでした。

 「なーんだ、お前はたったそれっぽっちか?そんなちっちゃな軽い物なら、だれだって持ち上げられるよ。」

 兄さんたちはばかにしたように、ふうさぶろうに言いました。
それでもふうさぶろうは何度も何度もフーッフーッ。フーッフーッと大きく息をふきかけました。
持ち上がった花びらは、まるでチョウのようにひらひらと空中を舞っています。

 その時です。さっきまで地面に転んでないていた女の子が、急にすくっと立ち上がりました。
両手を上げると、ばんざいをして何度も何度もとび上がりました。
ひらひらしている花びらを、手でつかもうとしたのです。

ふうさぶろうはさらに、息をふきつづけました。
 その女の子のすがたを、遠くで見ていた他の子どもたちも、そばにやってきました。
男の子も女の子も小さな子もちょっと大きな子も。
 みんながピンク色の花びらをつかもうと、手を伸ばしてぴょんぴょんとび上がりました。
どの子も目をキラキラかがやかせてわらっています。
子どもたちの黒いかげまでもが、地面ではずんで楽しそうです。

「ぼくはあんなにいっぱい、花びらを持ち上げたよ。
男の子も女の子も、いっぱい持ち上げたよ。だからぼくが一番力もちだよね。」 
 ふうさぶろうが、茶目っ気たっぷりにそう言った時でした。
どこかから低いやさしい声がしてきました。
みんなは、いっせいに声のした方を見ました。

「そうさ。みんなにえがおの花をいっぱいさかせた、きみが一番だよ」
 そこには風の子の兄弟たちを見て、うれしそうにわらっているサクラの木がいました。

(2013年 第25回新美南吉童話賞応募作品)白鳥鈴奈作 


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