「星屑の願い」


「星屑の願い」

ケン太は森の中を歩いていました。

気がつくともう夜になっていました。

遊び疲れて野原で寝ていたら こんなに遅くなってしまったのです。

虫かごを腰にぶらんと下げ 竹と白い網でできた網竿をぎゅっと握りしめてケン太はとことこ早足で帰ります。

前を見ると暗くてちょっぴり恐いので 少し明るい上のお空を見上げてみると木たちの間から山ほどの星たちが、たくさんキラキラ輝いて見えました。

ケン太はふっと 手に握りしめた網竿を見つめ、あの星をいっぱいとって このかごの中をいっぱいにしてみたいなあって思いました。

虫かごの中を覗くと 昼間採ったトンボの 大きなお目めと目が合いました。

「ねえ、あの星、一緒に採りにいこうよ!」

トンボは大きなお目めをさらに大きくさせて 声をかけてきました。

「あんな高いところにあるんだもん。網竿が届かないよ!」

ケン太は呆れて言いました。

「私の背中に乗りなさいな。飛んで連れて行ってあげるから」

ケン太は急におかしくなって お腹をかかえてゲラゲラ笑いました。

「そんな小さな背中に乗れるもんかい」

「いいから、とにかくここから出して!」

トンボは自信たっぷりに強気に言います。

「逃げたいだけなんだろう?」

そう言いながらもケン太は虫かごから トンボを出してあげました。

小さかったトンボは どんどん大きくなっていきました。

これならケン太がのっても大丈夫です。

「さあ、早く乗って!」

ケン太が背中にまたがると、大トンボは ぐんぐん高くお空へむかって上がっていきます。

木たちよりも高く上がり 森が小さくなっていきます。

街の灯りも星屑のように ぽつんぽつんと小さく見えてきます。

さらにぐんぐん上がっていき 下を見ても もう紺色したお空だけになりました。

キラキラした星があちこちに 紺色したお空にぶら下がっています。

金色して平べったくて まるでケン太の家で毎年飾るクリスマスツリーのてっぺんにのせる星そっくりです。

ケン太が近くにあった星を1つ手にとりました。

何か字が書いてあります。

「字がうまく書けるようになりますように・・・」

はてなと思いながらも ケン太は虫かごに星を入れます。

またケン太は星を手にとります。

「なつやすみ、どこかへつれていってもらえますように・・・」

「?」

また別な星をとって見てみます。

「世の中が平和になりますように」

ケン太はつぶやきます。

「なんなんだろう?」

トンボはニコニコ笑っています。

「あしたの給食にきらいなピーマンがでませんように」

「大きくなったらパイロットになれますように・・・」

ケン太はやっと気がつきます。

これって、誰かのお願いなんだ・・・

そろそろ虫かごも星でいっぱいになりました。

最後に星を一枚だけ 手にとりました。

「ケンちゃんとミーコが仲なおりできますように」

ケンちゃんとミーコって・・・

ケンカしている最中の僕とミーちゃんのこと?

ケン太がその星も虫かごに入れようとしたらときでした。

星はケン太の手からすべり 下へすーっと流れ落ちていってしまいました。

・・・流れ星になったんだ・・・

ケン太がそうつぶやくと トンボは「きっと願いがかなうんだね」って言いました。

「流れ星は願いが叶う時に流れるからね。きっとその人のところへ飛んで行ったんだね」

そう言うと、トンボは元の森へむかって紺色したお空からぐんぐん下へ下りていきました。

街の灯りが星屑のようにぽつんと小さく見え、やがてこんもりした森が大きく見えてきます。

そして最初いた場所にトンボは下りました。

どうたった? とでも言いたそうにトンボはケン太を見ています。

「ありがとう。楽しかったよ」

ケン太が虫かごを覗くと、星がいっぱい入っているはずの虫かごには、もう星は1つも入っていなくて かわりに先ほどまで大きかったトンボが入っています。

それも小さくなっていました。

あれ?

ケン太は不思議でたまりません。

とりあえずケン太はトンボを虫かごから外に出してあげました。

トンボはしばらくケン太の手の上でじっとしていましたがやがてどこか暗闇の中に飛んでいって消えてしまいました。

外の暗闇に1人だと気がついてちょっぴり恐くなったケン太は、空っぽの虫かごを腰にぶらさげ 闇に白く光る網竿を手にぎゅっと握りしめて家に早足でとことこ急ぎます。

上のお空を見上げると 先ほどまでの星がいっぱいキラキラしています。

急にケン太はさっきの流れ星を思い出しました。

明日 ミーコちゃんに謝ろうかなあ・・・

ミーコちゃんの髪の毛を強くひっぱったこと・・・

ついかわいくて ちょっとだけひっぱりたくなっただけだってこと・・・

そうしたら、ちょっと力が強くなってしまったってこと・・・

決して意地悪したかったんじゃないってこと・・・

・・・・・・・・・・・

メールマガジン愛の砂時計79号掲載 白鳥鈴奈作 


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