「コガネムシのぺえ助」 


「コガネムシのぺえ助」   

夏のとても暑い日でありました。
お日さまさえも汗をいっぱいかいています。
山の中に一本の道がありました。
たくさんの木がしげっています。
葉っぱのすれる音がさわさわと移動しています。
風の子たちが葉っぱの上を元気よく走っていきます。
葉っぱの上をトランポリンのようにジャンプしている子もいます。
鬼ごっこをして遊んでいるのです。
こがねむしの子供も一緒です。
名前をぺえ助といいます。金色の服を着た男の子です。

風の子たちはなんて走るのが速いのでしょう。
あっというまにこがね虫の子供の後ろにやってきました。
「ぺえ助、つかまえた!」
風の子は後ろからそーっとしのびより、ぺえ助の背中をパンと勢いよくたたいて逃げていきました。
ぺえ助が振り向いた時にはもうとっくに遠くにいます。
「ここまでおいで。」と手をたたいて笑っています。
ぺえ助はもう何度も鬼ばかりしています。
「ごめーん。疲れちゃった。休憩するから、鬼変わって!」
そう言うと、ぺえ助は一番大きな葉っぱの上にごろんと寝転がりました。
風の子たちはまだ追いかけっこをして遊んでいます。
ぺえ助が寝ている葉っぱの上を足でどんと踏んでわざと大きく揺らしていったりもします。

うつらうつらしていると、突然、下の方から学校帰りの人間の子供の声が聞こえてきました。
男の子と女の子がかわりばんこに歌っているようです。

 こがね虫は かねもちだ
 かねぐら立てた くら立てた
 あめ屋で水あめ
 買ってきた

 こがね虫は かねもちだ
 金ぐら立てた くら立てた
 子どもに水あめ
 なめさせた

歌を聞いたこがね虫のこどもはびっくりしました。
誰のことを言ってるんだろう?と思いました。
かねぐら立てた くら立てたこがね虫って。
自分もこどもだから、そのこがね虫に水飴をいっぱいなめさせてもらえないかなあと思いました。
ぺえ助は歌っていた子供に聞いてみることにしました。
子供たちの方に飛んでいきました。

「ねえ、さっきの歌だけど。かねもちのこがね虫ってどこにいるの?」
ぺえ助は男の子と女の子に聞きました。
「何言ってるんだよ!目の前にいるじゃないか!」
黒いランドセルを背おい、帽子をかぶった男の子が言いました。
「えっ?おいらのこと?おいらはかねもちじゃないよ。」
「金ぴかの服、着てるじゃないの!金もちなんでしょう!」
赤いランドセルを背負い、三つ編みをした女の子が言いました。
「早く買ってきておくれよ。こがねむしは水あめをなめさせてくれるんだよ!」
「あなたはこがね虫でしょう?」
水飴を自分も舐めたかっただけなのに、変てこな話になりました。
ぺえ助が黙っていると
「なーんだ、お前さんはこがねむしじゃなかったのか」
「なーんだ、あなたはこがねむしじゃなかったのね」
そう言うと、男の子と女の子はぷいと向こうに行ってしまいました。

ぺえ助はがっかりして家に戻りました。
お母さんは縫物をしていました。
「こがねむしはかねもちなの?こがねむしは子供に水あめを買ってあげるの?水飴をなめさせないとこがね虫じゃないの?」
ぺえ助がお母さんに尋ねました。
お母さんは縫物をしている手を止めて言いました。
「バカなことを言ってるんじゃないよ。いったい誰がそんなことを言ったのかい?自分に都合のいいことを言っただけさ。」
ぺえ助の目をじっと見つめています。
「お前はお前なんだ。何をしても何をしなくても。どんな風であっても。お前はこがね虫さ。」
「そうだよね。おいらはどんなことがあってもこがね虫だよね。」
ぺえ助はやっと安心しました。

安心すると、急に水飴が食べたくなってきました。
ぺえ助はいっしょうけんめいにおこずかいを貯めた貯金箱から5円を取り出しました。
「ちょっと行って来る」と言ってぺえ助は、家を飛び出しました。
横町のあめ屋までブーンと飛んでいきました。
そして店の前に下りると、木の戸をガラガラと開けました。
店の奥には銀色の眼鏡をかけたおばあさんが店番をして座っています。
棚の上にはいくつものガラスの瓶がのっかってあります。
渦の巻いたペロペロキャンディー、紙で包んだキャンディー、綺麗な色の丸い飴玉・・・
水飴の入った瓶もありました。
ぺえ助はごくんと唾をのみこみました。
「こんにちは。水あめ1つくださいな。」
「水あめひとつだと10円だよ。」
お店のお婆さんは右手をだしました。
ぺえ助はお婆さんの手のひらの上に5円をのせました。
お婆さんがじーっとぺえ助の顔を見ています。
だんだんおばあさんの顔がしわくちゃになってきました。
「5円じゃ足りないね。10円と言っただろう?お前さんはこがね虫じゃないのかい?
そんな金ぴかの服を着てお金をいっぱい持ってるんじゃないのかい?」
おばあさんはぎょろっとした目でぺえ助を見ました。
ぺえ助はへびに睨まれたカエルのように、身体がすくんでしまいました。

あめやのお婆さんはおかまいなしに言いました。
「お金が無いなら、売ってやらんよ。さっさと家にお帰り!」
またぺえ助をぎょろっとにらみつけました。
そして、ふとぺえ助の着ている金色の服に目がとまりました。
お婆さんは少し考えて急に優しい声になりました。
「僕、水飴、そんなに欲しいかい?可愛いから、特別に5円におまけしてあげよう」

お婆さんはにたーっと笑いました。奥歯の金歯がきらっと光りました。
そして割り箸に水あめをくるくると回してからめてぺえ助の手に握らせました。
ぺえ助は水あめをぺろっと舐めてみました。
その美味しい事といったらありません!
ほっぺたが落ちてしまいそうでした。
「美味しいじゃろう!もっと欲しいじゃろう?」
お婆さんは言いました。
ぺえ助は「うん」とうなずきました。
おばあさんは、またにたーと笑いました。
「今、お前さんが着ているその金ぴかの洋服と交換してやろうか?」
ぺえ助はどうしようかと考えてしまいました。
たった一枚しかない服です。
ですが、あのほっぺたが落ちそうになるほどの美味しさをどして忘れられましょう。
とうとうぺえ助は着ている金ぴかの洋服を脱いで、水あめと交換してしまいました。

お婆さんはぺえ助に3本の水あめを渡しました。
そしてぺえ助から金ぴかの洋服を受け取るとさっそく着てみました。
またにたーっと笑いました。金歯がきらっと光りました。
ぺえ助は水あめを舐めているうちに、歌を歌っていた子供の事を思いだしました。
アメ屋を出てさっきの男の子と女の子を探しました。
原っぱで遊んでいるのを見つけると、2人に水あめをさしだしました。
「はい。水あめだよ。さあ、舐めなよ」
子供はきょとんとしています。
「いきなり、何だい?」
「あなたは誰ーれ?」
「こがね虫だよ!さっき、話したこがね虫だよ。さっき歌っていただろう?」
ぺえ助は威張って言いました。
「こがね虫だから、水あめをなめさせてあげるんだ。」
子供たちはまだ首をかしげています。
「お前さんは本当にさっきのこがね虫?」
「こがね色していないわよ!」
お婆さんに水あめと着ていた金色の洋服を交換してしまったぺえ助。
なのでもうぺえ助は金色の洋服を着ていません。
子供の前にいたのは、茶色くて、どこにでもいるただの小さな丸い虫でした。
(おわり)

白鳥鈴奈作
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説明する必要はないのですが・・・
人がなんと言おうと、自分は自分でしかない。
人の言うことに合わせようとして、人に振り回されると、
いつしか自分が自分でなくなってしまうというのがテーマです。


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