「見えないクリスマスプレゼント」


「見えないクリスマスプレゼント」

クリスマスの日のことです。
「今年もサンタさん、メルのところに来てくれるかしら?
 メルは今年、いい子だったし。」

ローテンブルクの小さな街に住む小さな女の子メルが目をキラキラさせながら言いました。
そばにミャオという黒いネコが、大好きな女の子・メルを見つめています。
お母さんは繕い物の手を休め、こう言いました。

「サンタさんはきっと大忙しだと思うね。だって考えてもごらん? 世界中をたった1日で回らなくちゃならないんだからね。 目に見えない速さで家から家へ回っているんだよ。メルだってサンタさんを見た事はないだろう?」
「だから・・・」

そこまで言うと、
「来るのを忘れる事もあるだろうよ!」
と言いかけて、お母さんは口をつぐみました。
「だから・・・?」
メルは眉毛をへの字にして聞き返します。
ネコのミャオも心配そうに耳をピンと立てて次の言葉を待っています。

その時です。
「メル、知っているかい?」
お母さんの言葉を続けたのはお父さんでした。

「母さんの言った通り、サンタさんもさすがに、世界中の子供の家を回るのは大変だから、直接来るのは何年かに一度なんだよ。だけど、たくさんの妖精にお願いして手伝ってもらってるんだよ。だからメルの家にも届けにきっと来るはずだよ。」
 「ほんと?」
メルの顔がぱっと明るくなりました。
 「そうさ。それに妖精の持ってくるプレゼントをもらった子はとっても幸せな子なんだよ。 中には、たくさん、いい物が入っているんだから。幸せがいっぱい入ったプレゼントってわけさ。」
メルはへーと大きく嬉しそうに頷きました。
お父さんはゆっくりと考えながら、言葉を選びながら続けます。
 「ただ、このプレゼントは外の箱が見えなくて、中に入っている物がすぐには見えないんだよ。」

それを聞いた途端です。
それまでニコニコしながら聞いていたメルは、怒ったように
プーと頬を膨らませました。
それでも、お父さんはメルの頭を優しく撫でながら続けます。
「だけど、時間がたつと、箱に入った物がだんだんと見えるようになってきて、自然に箱が開くんだよ。」

とうとう、メルのプーと膨らんだ頬ははじけてしまいました。
「そんなもん、メルはいらない!
 見える物でなければ、そんなもん、いらない!」
ふくれっ面してメルは家から飛び出してしまいました。
ネコのミャオも後をたったたったと追いかけていきます。

石畳の広場まで来ると、薄いボロ着を着たお爺さんが、ちょっと高くなった石の上に座っていました。
「どうしたんだい?今日はクリスマスの日だっていうのに。そんな顔をして・・・」
ふくれっ面のメルを見て、お爺さんは言いました。

「だって、今年はいい子だったのに、サンタさんが今年は来なくて、代りに妖精が見えないプレゼントを持ってくるっていうの。 見えないプレゼントを!」

メルは最後の言葉を強調して、お爺さんに訴えるように言いました。
「ふーん。そうかい。」
お爺さんは、何もかもわかったようにゆっくりと頷き言いました。
「ところで、何かを忘れてないかい?今日はなんの日かを」
「忘れてなんかいないよ!クリスマスの日だってば!」
メルは意地になって大きな声で言いました。
「それはなんの日だったかな?」
「だから、サンタさんがプレゼントをくれる日!」
「ほんとうにそうだったかね?」
お爺さんは眼鏡の縁を持ち上げメルを優しく覗き込みました。

メルは少し考え直して言いました。
「神様が生まれた日のお祝いの日!」
「そうだね。それに神様じゃなくたって、生まれた日っていうのは、目出度いものさ。そうだね、お前さんの生まれた日だって、みんな大喜びだったろうよ。」
お爺さんは目に笑みを浮かべて言いました。
  「そうだけど・・・。

 ところでお爺さんは、ここで何をしてたの?」
今度はメルが聞く番です。
「この道を通る人を見ていたのさ。」
「でもどうして?こんな所で寒くない?」
不思議そうな顔をしてメルはお爺さんを見ました。
「一緒にクリスマスを祝いたいからさ。
楽しそうにしている人を見ると私も楽しくなるからね。」
そう言ってからお爺さんはポケットに手をつっこみました。

そしてごそごそと何か小さなものを取り出しました。
いえ、取り出したように見えました。
だって、手の中には何も見えなかったからです。
「私からのプレゼントだよ。見えるかい?今見えたらたいしたもんだ。見えなくてもそのうちに姿を現すようになる。その時のお前さんの幸せそうな顔が見えるようだよ。」
ウェインクしながらお爺さんはメルの手のひらにちょこんとのせました。

「それと、このクリスマスカードもやろう。」
お爺さんはメルのもう一つの手のひらに二つに折りたたんだカードを載せました。
メルは字が読めないので何が書いてあるのかわかりません。

メルはとりあえずお礼を言うと家に帰りました。
ミャオも嬉しそうに足を弾ませ、尾っぽを揺らしてついてきます。
メルが戻ると、それまで寂しそうな顔をしていたお母さんとお父さんもメルの顔を見てほっとしたようでした。

メルは、持っていた見えない箱とカードを自分の宝箱にしまいました。
宝箱と言っても、余り木でできた箱です。
中には、昨年のサンタさんのプレゼント(?)の赤いリボンとおもちゃの指輪が大切そうに入っています。
「今日はクリスマスだから、これからケーキでお祝いだよ!」
お母さんがメルを喜ばせようと大きな声で勢い良く言いました。
四角い木の硬いテーブルの上には、パン生地にクリームが少しだけ乗ったケーキとジャガイモのスープがあります。

テーブルの4辺にお父さん、お母さん、メル、そしてネコのミャオが顔を並べています。

「今日ね、広場におじいさんがいてね、・・・」
メルは話し出しました。
ローソクの灯りの中、みんなの笑い声がしています。
今年も楽しいクリスマスになりそうです。

ところで、メルの出会ったおじいさんは、お父さんの話していたサンタさんのお使いの妖精で、もらったプレゼントも「見えない
プレゼント」だったのかもしれません。

時間がたつと、中に入っている物がだんだんと見えるようになってきて、自然に箱が開くという・・・
そしてもう1つのカードにはこう書かれていたのです。

  「 いつか、この箱の中の 
  たくさんの幸せと愛の姿が見えた時
  すでにたくさんの幸せと愛を
  受け取っているであろう・・・ 」

キャンドル

メールマガジン「愛の砂時計」掲載 白鳥鈴奈作
全国FM放送 ボニー・ピンクさん朗読


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